生きている実感を得られるものをつくることが日本のものづくりの役割

人はいつも「生きている実感が欲しい」と願う生き物だと思う。でもそれは、あらゆるものがデジタル化していくにつれて失われてしまうものなのかも知れない。

たとえばスマホ。スマホはカメラや時計、音楽プレイヤーなどあらゆる機能をたった一台で実現することができる。でもその代わりに、ボタンを押したときのメカニカルな音や、手先に返ってくる振動がないから、操作している実感がない。ハンドスピナーという奇妙な玩具が流行ったりするのは、それが原因なのだろう。

クルマもそうだ。自動運転が普及すれば事故も渋滞も減るし、運転からも解放されて便利になる。でも運転することそのものが楽しいという人はたくさんいて、そういう人は従来の車を購入するのだと思う。その場合はきっと、中途半端にデジタル化された車ではなくて、操作している実感の持てるマニュアル車を選ぶはずだ。

モノの中には、デジタルで満足できることと、やっぱりアナログでなければ満足できないということの二つがあると思う。その二極化がいま進み始めている。

これは日本のものづくり業界にとって大きなチャンスだ。日本ほど感性価値の高いものをつくることができる国はほかにないからだ。

これから日本のものづくりを発展させていくには、世界中の人々にメイドインジャパンを手にすることが誇りであると思われるようなものを、私たち日本人がつくっていくことだ。そのためにはアナログ感、リアル感があり、生きている実感を得られるものをつくること。これはとても大切なことではないだろうか。

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