第11回ものづくり文化展の開催にあたり


最近、「ミニマリスト」という言葉をよく聞くようになりました。不要な持ちものを減らして最小限のものだけで暮らす人のことを指すそうです。なぜこのような人たちが増えてきたのでしょうか。

それは、「物質的な豊かさが満たされている社会になったから」だと私は思っています。物資が不足していた時代においては、モノがたくさん売れました。しかし現代においては、モノが溢れており、需要は飽和状態になっています。

しかし、企業はモノを売らないと利益にならないので、何とかして売ろうとします。需要が飽和しているのに売ろうとするから、まるで人を騙すような売り方も横行しているように思います。

そんな状態ですから、もう「モノは要らない」と思っている人も多いのではないでしょうか。それがミニマリストが増えている理由ではないか思います。

一方、同じモノでも人気が高まっているモノがあります。たとえばヴィンテージカーがそうです。最新のテクノロジーを搭載したクルマよりも、半世紀も前に作られたような古いクルマのほうが何倍も高く売れていると言います。高く売れるということは、それだけ価値が高いということです。

これまで私たちは、便利で快適なモノこそ価値が高いと考えてきました。しかし、現在起きていることはその逆です。不便で危険なモノのほうが価値が高いのです。

もう少し例を挙げてみたいと思います。今キャンプが流行っていますね。実は私も最近始めた大勢の中の一人です。キャンプはまさに不便で危険ですよね。ホテルのほうが明らかに便利だし快適です。しかも、やってみてわかったのですが、ホテルのほうが安上がりです。キャンプは揃えないといけないものも多いし、場所にもよりますが利用料も意外と高い。

それから、薪ストーブが流行っていたり、古民家を改造したカフェが流行っていますね。これも同じく不便で危険と言ってよいと思います。

なぜこのような現象が起きているのでしょうか。

「人間性は無駄に宿る。」この言葉は、スノーピークの山井梨沙社長が語った言葉ですが、ここにヒントがあるように思います。人間は理性的な生き物ではありません。人生を理性的に、事務的に、機械的に生きたいという人であれば、たしかに便利で快適なモノだけを揃えていればよいのかも知れません。しかし、それは果たして「豊かな人生」と言えるでしょうか。

やはり人は、便利とか快適というだけでは豊かさを感じないのだと思います。だから多くの人は、物質的な豊かさだけではなく、心の豊かさも求めているのではないでしょうか。それが不便で危険なモノの人気が高まってきた理由だと思います。

もう物質的な豊かさを提供するだけでは、人々の心を満たすことはできません。時代はもう次のステージに移っています。これからは、同じモノであっても、心を豊かにするモノを提供していく必要があります。

しかし、具体的にどうしたら心の豊かさを提供できるのか。私たちを含め多くの人にとって、それはまだ不明確でぼんやりとしています。ここでは不便で危険なモノの提供を挙げましたが、それだけが全てではないはずです。

豊かさというのは、モノに内在するのではなく、受け手側の意識が創造するものです。今までのように体の外を変化させるのではなく、体の中、つまり、私たちの意識に変化を与えるものが生まれてもおかしくないでしょう。

私たちの社会は今、「新しい豊かさ」の探求を始めたばかりなのだと思います。ものづくり文化展では、小さなつくり手たちから作品を募り、共に人類社会にとっての「新たな豊かさ」の発見と創造をしていきたいと思っています。それが、マスではなく個に向けて豊かさを提供できる「小さなつくり手たち」の大切な役割なのではないかと感じています。

第11回ものづくり文化展-9月1日から募集を開始します。https://www.originalmind.co.jp/cultural_exhibition2021/2021/index.php

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